お前と同じだなって言われた話
今日は、久しぶりに会った人がいる。
とある、建設会社の部長さんだ。
昔から型枠の仕事でお世話になっていて、自分の夫婦の考え方や、子育ての考え方にも大きな影響を受けた人である。
昔から、その人の話は不思議だった。
「なるほど」と思うこともあれば、
「そんな考え方があるのか」
と思うこともあった。
たぶん今の自分は、その人から教わったことを、気づかないうちに子育てにも夫婦生活にも持ち込んでいる。
少し話をしたあと、その人が聞いてきた。
「子育ては順調か?」
順調。
子どもは元気である。
よく笑う。
よく食べる。
でも、言うことは聞かない。
「いやぁ、全然言うこと聞いてくれないですよ」
そう答えた。
すると、その人は笑いながら言った。
「お前と同じだな。」
その瞬間、自分は何も言えなかった。
確かにそうだった。
自分は親の言うことを素直に聞く子だったか。
全然そんなことはない。
「危ないからやめなさい。」
と言われても、五分後にはまた同じことをしていた。
「そこ登るな。」
と言われたら、なぜか登りたくなる。
「走るな。」
と言われたら、急に全力で走りたくなる。
親は止めようとしている。
一回怒られたくらいでは止まらない。
二回怒られても止まらない。
三回目くらいになると、
「次はバレないようにやろう。」
と学習する。
学ぶ方向がおかしい。
親はたぶん、
「そこじゃない。」
と思っていたはずである。
それなのに、自分は親になった途端、
「何で言うこと聞かないんだ。」
と思っていた。
ずいぶん都合がいい。
人間というのは、本当に忘れる生き物である。
自分が子どもだった頃のことを。
親にどれだけ迷惑をかけたかを。
怒られたことを。
心配をかけたことを。
全部きれいに忘れて、
今度は親の立場から子どもを見ている。
あの一言を聞いた時、自分の子どもを見ているつもりが、昔の自分を見ていたことに気づいた。
言うことを聞かない。
落ち着かない。
興味を持ったら一直線。
たしかに似ている。
似ているから腹が立つのか。
似ているから心配なのか。
そこはまだよく分からない。
でも、一つだけ思った。
親も、こんな気持ちだったのかもしれない。
何度言っても聞かない。
それでも毎日言う。
怒って、笑って、また怒って。
それを何年も続ける。
親というのは、思っていたより気の長い仕事である。
子どもが言うことを聞かないのではない。
子どもは子どもなりに、一生懸命生きているだけなのかもしれない。
昔の自分がそうだったように。
そう考えると、少しだけ気持ちが楽になった。
もちろん、危ないことは止める。
ダメなことはダメと言う。
それは親の仕事だ。
でも、全部思い通りにしようとしなくてもいいのかもしれない。
自分だって、思い通りには育たなかった。
それでも何とか大人になった。
あの日の自分に、
「ちゃんと言うことを聞け。」
と言っても、たぶん聞かない。
今の子どもも、きっと同じなのだろう。
「お前と同じだな。」
たった一言だった。
でも、その一言で、自分は子どもを見る目が少し変わった。
子どもを育てているつもりだった。
でも実際は、自分が育てられているのかもしれない。
つよし